潰瘍性大腸炎の治療

重症度判定

重症中等症軽症
排便回数6回以上重症と軽症との中間4回以下
顕血便(+++)(+)~(-)
発熱37.5℃ 以上(-)
頻脈90 /分以上(-)
貧血Hb 10g/dL以下(-)
赤沈30mm/h 以上正常

重症とは 1) および 2) の他に全身症状である 3) または 4) のいずれかを満たし、 かつ 6 項目のうち 4 項目以上を満たすものとする。 軽症は 6 項目すべて満たすもの。

重症の中でも特に症状が激しく重篤なものを劇症とし、発症の経過により、急性劇症型と再燃劇症型に分ける。 劇症の診断基準は以下の5項目をすべて満たすものとする。

  1. 重症基準を満たしている。
  2. 15回/日以上の血性下痢が続いている。
  3. 38℃以上の持続する高熱がある。
  4. 10,000/mm3以上の白血球増多がある。
  5. 強い腹痛がある。

CAI (Clinical Activity Index)

1週間の排便回数スコア
< 180
18 - 351
36 - 602
> 603
血便(1週間の平均)スコア
なし0
少量(明らかな粘血便ではないが、肉眼的に血液の混入が確認できる)2
粘血便がある4
医師の症状アセスメントスコア
潰瘍性大腸炎による症状がない0
軽度の症状はあるが、勤務、勉学、家事等の日常生活に差し支えない1
症状があり、通勤、通学、家事等の生活活動が制限される2
症状があり、入院安静を要する3
腹痛の有無スコア
なし0
時々気になる程度1
いつも気になる程度2
がまんできない程度3
体温スコア
38℃以下0
38℃超3
腸管外合併症スコア
虹彩炎3
結節性紅斑3
関節炎3
臨床検査スコア
ESR > 50mm/h1
ESR > 100mm/h2
Hb < 10g/dL4

点数を合計して評価をします。

Mild Moderate Severe
3 〜 5 6 〜 10 11 〜 12

寛解導入

寛解導入には 7 つの方法がある。

  1. 5-ASA 製剤
  2. サラゾピリン
  3. ステロイド内服
  4. CAP 療法
  5. 高用量ステロイドによる寛解導入
  6. 生物学的製剤、JAK 阻害薬

5-ASA 製剤

最も多い副作用はアレルギーで投与開始 1 週間以内に起こる。
下痢・血便の悪化、発熱で発症する。アレルギーの場合は、薬剤を変更・中止する。

初期投与量
ペンタサ4.0 g
アサコール3.6 g
リアルダ4.8 g

サラゾピリン

サラゾピリンはそれ自体に免疫抑制作用があり、5-ASA が無効な例でもサラゾピリンが有効な場合がある。
ただし、副作用は 23 % 程度出現するので、500 mg/day から開始して 1 - 2 週間程度副作用出現を確認してから漸増する。
サラゾピリンの薬用量は 4 - 6 g であるが、5-ASA と併用する場合はもっと少量で良い。

ステロイド内服

中等症の場合には、30 - 40 mg/day で開始して 2 週間で判定し、効果があれば漸減する。
初期投与量は、30 mg/day 以上の十分量を処方する。

CAP 療法

週 2 - 3 回程度のペースで合計 10 回施行する。4〜5回目で効果を判断する。5 回施行して効果がない場合は著効が得られることは少ない。
深掘れ潰瘍がある場合には CAP 療法は効きにくいとされている。

高用量ステロイドによる寛解導入

重症であれば入院して治療する。

  1. 絶食。
  2. ステロイドを 60 - 80 mg/day 点滴静注。
  3. カルバペネム等の抗生剤投与。
  4. バクタ 1T/day 投与。
  5. PPI 投与。
  6. 免疫調節剤投与に備えて、HBc 抗体と T-spot を調べておく。

ステロイドの効果判定は 1 週間後におこなう。
効果がなければ別の治療法に変更し、効果があれば漸減する。

生物学的製剤、JAK 阻害薬

高用量のステロイドで効果がない場合や免疫調節薬でコントロールできない場合は、生物学的製剤を考慮する。

標的分子TNF-αα4β7インテグリオンIL-12/23
製品名レミケード (インフリキシマブ)ヒュミラ (アダリムマブ)シンポニー (ゴリムバブ)エンタイビオ (ベドリズマブ)ステラーラ (ウステキヌマブ)
略語IFXADAGLMVDZUST
製剤キメラ型ヒト型ヒト型ヒト化型ヒト型
投与量5mg/Kg160mg
→ 80mg
→ 40mg
200mg
→ 100mg
300mg260mg (BW ≦ 55Kg)
390mg (55 < BW ≦85Kg)
520mg (BW > 85Kg)
→ 90mg
投与間隔0,2 6,→ 8 週間隔2週間隔0,2 → 4 週間隔0,2,6 → 8 週間隔0,8 → 12 週間隔
投与方法点滴静注皮下注皮下注点滴静注初回は点滴静注 →2回目以降皮下注
投与場所医療機関自宅医療機関/自宅医療機関医療機関
治療時間2時間短時間短時間約30分約1時間 (維持は短時間)
投与反応(+)(-)(-)(±)(-)
効果減弱時の増量・短縮8週間隔に短縮
費用(年)1,323,693 円1,516,125 円1,450,775 円1,747,331 円3,181,816 円

レミケードの場合は、アレルギーを予防するために以下の薬剤を投与前に服用する。

処方例)
レスタミンコーワ(10mg) 5T
カロナール 2T 
レミケード投与前に服用。

トファシチニブ(TOF)は経口投与できる分子標的薬で、免疫源性も低く効果減弱が起きにくい薬剤である。
半減期は非常に短く、また血中濃度測定の必要はない。ただし、帯状疱疹などの合併症が多いと言われている。 また、免疫調節薬との併用は禁忌で妊婦にも使用できない。

これだけ分子標的薬の選択肢が多いと、どのように使い分けるべきかが問題になるが、以下のようにすればいいのではないかと思っている。

  1. 比較的重症なタイプであれば IFX。
  2. 中等症であって、自宅で自己注射を希望する人は ADA か GLM。
  3. TNF-α で効果減弱した場合や効果不十分な場合には、VDZ か UST または TOF に変更する。
  4. TOF 以外は原則的に免疫調節薬を併用する。

寛解維持療法

寛解維持療法には 3 つの方法しかない。

  1. 5-ASA、サラゾピリン
  2. 免疫調節薬(アザニン®/ロイケリン®)
  3. 生物学的製剤

5-ASA、サラゾピリン

5-ASA だけで維持可能な症例は問題ないが、コントロールが不十分な場合にはまずサラゾピリンを試してみる。

サラゾピリンは 500mg/day から始めて副作用を確認しつつ、効果発現まで増量していく。
サラゾピリンの使用量は 9 - 12 T/day であるが、有効と考えられる場合には少量でもよい。サラゾピリン増量と共に 5-ASA を減量する。

免疫調節薬(アザニン®/ロイケリン®)

サラゾピリンでもコントロールできない場合や副作用が強い場合は、免疫調節薬を使用する。
アザニン®は錠剤、ロイケリン®は粉末である。

白血球数が3,000/μL台程度まで低下し、MCVが100 fL 前後程度まで上昇した状態が適正用量である。
適正容量の個人差は、アザニンで 25mg - 200 mg と非常に大きい。しかも適正容量の帯域は狭いため、それ以下では効果が期待できない。

アザニン®/ロイケリン®の使い分けは、

  1. IBD に対して保険適用となっているのはアザニン®のみなので、まずはアザニン®から開始。
  2. アザニン®は 25mg/day、ロイケリン®は 10-15mg/day の少量から開始。
  3. アザニン®は 25mg/day より開始して、8 週後より 25 − 50mg/月のペースで増量していく。
  4. 副作用は、用量非依存性のアレルギー(発熱、筋肉痛、関節痛、発疹、嘔気・嘔吐、肝機能障害、膵炎)と依存性(脱毛、骨髄抑制、肝機能障害)がある。
  5. 投与開始後 1 ヶ月間は可能な限り毎週診察・採血をする。
  6. 副作用のためアザニン®を継続できない場合にはロイケリン®に変更するが、その場合にはアザニン®の半分程度の使用量(mg)とする。
  7. 白血球数が突然1,000/μl を下回るほどの強い骨髄抑制が起こった場合は、入院してG−CSF投与や血小板輸血などを行う。
  8. 欧米では 3mg/Kg まで使用しているが、日本の添付文書では 2mg/Kg が上限である。(上限は100mg/day)
「Nudix hydrolase 15(NUDT15)遺伝子多型検査」

最近、難治性の潰瘍性大腸炎に対して保険適用となった検査で、白血球減少・脱毛を高い確率で予測できる。
ただし、免疫調節薬投与前に 1 回だけ認められている。

生物学的製剤

免疫調節薬でもコントロールできない場合には、生物学的製剤を使用する。
生物学的製剤は寛解導入療法で提示した方法で寛解し、そのまま維持療法に移行する。

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